秋の月は日々戯れに
これまでは、無表情で淡々と仕事をこなす姿が、まるで精巧なロボットのようだったとも言われた。
その頃に比べたら、今の方が断然人間らしいとも――。
ぼうっとしていて、危うく吹きこぼれそうになった鍋にハッとしてコンロの火を消すと、とっくに解凍が終わっていたご飯をレンジから取り出して、温まったレトルトのカレーをかける。
中辛のはずなのに、ふわりと湯気にのって立ち上ったのは甘い香りで、その中にスパイスの複雑さが混ざり合う。
ああ、そう言えば――駅前のカレーは、こんな香りだったと記憶が刺激される。
刺激されたのは記憶だけで、やっぱりちっとも食欲は湧かないけれど、食べなければまた顔を合わせた同僚にゾンビ呼ばわりされることは必須なので、スプーンを手にテーブルに向かう。
少なめに一口掬って口に入れると、ピリリと辛いのにベースは甘く、スパイスがよく効いている、間違いようもない駅前のカレー屋の味が広がった。
「……そうだ、こんな味だった」
しばらく食べに行っていなかったので忘れかけていたが、一口食べれば蘇る。
それくらい、駅前のカレー屋の味は独特だ。
唯一無二、ここでしか食べられない、などといい意味に聞こえそうな言葉で表現することもできるが、だからこそ好き嫌いが分かれる。