秋の月は日々戯れに
一般的に皆が美味しいと思えるカレーの味とはどこか違っていて、万人には好かれない。
彼女に聞かれた時には曖昧にはぐらかしたが、彼はそんな駅前のカレー屋の味が嫌いではない。
時々、無性に食べたくなる時すらある。
でもそれを言ってしまったら、なんだかそのカレー屋の味に似た彼女のカレーも気に入っていると言っているみたいだったから、言わなかった。
たまに妙にポジティブなところのある彼女なら、絶対にそう思う。
そう解釈して喜んで、嬉しそうにベタベタとまとわりつくところまで容易に想像できる。
一口、また一口とカレーを口に運びながら、そう言えば彼女の冷たさはどんなものだったかとふと考える。
彼女の足の透け具合は、肌の青白さは、ワンピースの形状はどんなものだったか――。
近頃夢の中に出てくる彼女は、なぜだか健康的な肌色をした明らかに”生きている”彼女ばかりで、時々本当の彼女を忘れてしまいそうになる。
儚くて、淡くて、今にも消えてしまいそうな彼女こそ、彼が知っている彼女で、それこそが彼の中での本当だ。
健康的な肌色をした彼女は、彼にとって偽物でしかない。
悲しくも、それが事実。
いつだったか、彼女のカレーを食べていた時と同じように、彼は黙々とカレーを口に運ぶ。