秋の月は日々戯れに
「何か取ろうか?」
空のまま放置していた取り皿を指差した問いかけに、彼は首を横に振って答えた。
並んでいる料理はどれも美味しそうだが、今日も今日とていまいち食欲が湧かない。
「おでんの美味しい店だって聞いてたけど、そのおでんはどのタイミングでくるんだ?今のところおでんな空気ゼロだけど」
テーブルに並んでいるのは、居酒屋でお馴染みの料理ばかり。
仕事終わりに社員達がぞろぞろと連れ立ってのれんをくぐった時には、もう既にテーブルには料理が並んでいた。
年若い者が多い部署ということもあってか、ガッツリした揚げ物類が大半を占めている。
「おでんは最後の締めなんだって。愛美ちゃんにお呼ばれしてちょっと厨房行って出汁を味見させてもらったけど、すっごく美味しかったよ。あの出汁が染みた大根はきっととんでもないね」
「なんでフライングしてんだよ」と彼が不満げに呟くと、同僚は「いいでしょ」と得意げに笑った。
「ところで、その後どうなの。あっきーとは、ちゃんと仲直りできたわけ?」
いらないと言ったはずなのに、同僚は彼の前にある皿を手に取って、適当に料理を取り分けながら問いかける。