秋の月は日々戯れに
おもちでふっくら膨れた油揚げの口を、かんぴょうがしっかりと閉じている。
いつかの彼女が作った餅巾着のように、溶けたおもちがでろでろと油揚げの口からはみ出したりはしていない。
しばらくぼんやりと眺めてから、彼は餅巾着に齧り付いた。
齧った瞬間、揚げから出汁がジュワッと染み出して来る。
熱い、とんでもなく熱いけれど、とんでもなく美味しい。
熱さに悪戦苦闘しながら何とか飲み込むと、冷たいウーロンハイで口内を冷やす。
「もう!だから気をつけてくださいってお願いしたのに。主役潰しちゃってどうするんですか!」
「いや、ごめん。つい気分が盛り上がって」
「まあまあ。せっかくの美味しそうなおでんの前で、そんなにプリプリ怒ることないだろ」
「一緒になって嬉々として勧めた人がよく言いますよ」
なんだか後ろがやけに騒がしい気がしたが、振り返ることなく彼はおでんを食べ続ける。
つゆまで綺麗に飲み干してから顔を上げると、カウンターの向こうにいつの間にか笑顔の大将が立っていた。
「おかわり、どうだい?」
なんだか久しぶりにお腹が空いているような気がして、彼は素直に大将へと綺麗に空にした器を差し出した。
「いただきます」
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