秋の月は日々戯れに
「二次会、二次会行こう!皆でカラオケ」と盛り上がるメンバーに丁重に頭を下げて、彼は帰宅組に入る。
帰宅組とは言っても、メンバーは彼の他にすやすや寝息を立てている後輩と、なんだか難しい顔をした同僚のみ。
「いいのか?二次会行かなくて」
「そっちこそ」
問いかけに返ってくる答えはどこかそっけない。
と言うよりも、なんだか上の空だった。
後輩の片腕を肩に回し、ほとんど担ぐようにして立っている彼は、早くタクシーが来ないものかと通りに視線を巡らせる。
正直、体から完全に力の抜けている大の男を担ぐのは、長時間になると厳しい。
「……やっぱり、愛美ちゃんに任せてあたしは素直に二次会に行くべきだったか。いやでも、愛美ちゃん今日は忙しそうに動き回ってばっかりで全然ゆっくり出来てないし、せめて二次会くらいは……」
考えていることが全部口から零れている同僚に、これは返事をするべきなのかスルーするべきなのかと彼は悩む。
「ねえ」
そんな時、明らかに彼に向けられたと思しき声が聞こえた。
「これを機会に距離置くのやめるのと、バレないようにこっそり家に置いてこっそり帰るのと、どっちがいいと思う?」