秋の月は日々戯れに

至極どうでもよくて、彼にしてみればどっちだっていい。

自分が送っていくと申し出たのは同僚なのだから、好きにすればいいと彼は思うが、同僚はどうにも決め兼ねている様子だった。

きっかけを探していた割には、舞い込んできたきっかけに躊躇している。


「知らん。てか、正直どっちでもいい」


思ったことをそのまま伝えたら、同僚は途端に険しい顔になって「もっと親身になんなさいよ!」と声を荒らげた。

その拍子に、後輩が僅かに身じろぐ。


「ちょっと……!ここで起こさないでよ」

「おっきな声出したのはそっちだろ。それに、起きたら起きたで諦めつくだろ。どうせ迷ってるなら」


煮え切らない同僚は放って、彼は再び通りを見回してタクシーの姿を探す。

その時、路地の方に消えていく白い影が見えた気がした。

気のせいか、もしくはアルコールが見せた幻かと思ってはみたものの、なんだか無性に気になってくる。

ふわふわとまるで宙を漂うような歩き方は、とても彼女に似ていた。


「なあ、ちょっと頼めるか」

「何が?」


幸い、今角を曲がってこちらに近づいてきているヘッドライトは、待ち望んでいたタクシーだ。

こいつのこと、と言うより早く、同僚の肩に後輩の片腕を回して、ほとんど無理やり担ぎ手を交換する。
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