秋の月は日々戯れに
下りてきた、もとい落ちてきた彼女を抱きとめると、その体は空気みたいに軽くて、手の平には氷を掴んでいるような冷たさが伝わって来る。
「そんなに慌てなくても、わたしは平気ですよ。だって、幽霊ですから」
「突然すぎて頭から飛んだ」
「いけませんね。大事なことなので、しっかりと刻んでください」
初めて自分から触れた彼女の体は、儚くて、淡くて、冷たくて、今にも消えてしまいそうなのに確かにそこにある、そんな不思議な感覚があった。
確かに、生きている人間とは違う、彼女は間違いなく幽霊だ。
それでも――
「好きなんだ、秋月」
彼女は「いけませんね」とどこか呆れたように言って、それから嬉しそうに笑った。
「大体、あなたは俺にとり憑いたんだから、こういう場合、誰に言われずとも俺が息を引き取る瞬間までそばにいるのが普通でしょう」
「それは、わたしに看取って欲しいということですか?」
「そういうもんでしょ、普通は」
「さあ。生憎と、幽霊になったのも誰かにとり憑いたのも初めての経験なので、分かりかねますね」
首を捻って考え込む様子を見せながら、彼女が言う。