秋の月は日々戯れに
「妻って誰のことですか。俺は、幽霊と結婚した覚えはありません」
「つれないですね」とやや拗ねたようにベッドから身を起こした彼女は、二本の足をベッドの縁から下ろしてゆらゆらと揺らす。
彼女が身につけているワンピースは、足元に近づくにつれて徐々に色を失っていき、両足に至っては完全に向こう側が透けて見えてしまっている。
年下なのか年上なのか、年齢が判別しづらい顔は当然腕と同じに青白く、生き物の温かさがまるで感じられない。
それでも彼女は、パッと見は普通の生きている人間と変わらない。
変わらないけれど、彼女は間違いなく生きてはいない。
「わたし”末永くよろしくお願いします”って言ったじゃないですか。それって、嫁入り前の常套句ですよ?」
「あなたは嫁に来たんじゃなくて、とり憑いて来たんでしょう。大体、幽霊の“末永く”なんて恐ろしいのでやめてください。あと、できれば今すぐ成仏してください」
夜の公園で出会ってしまったとき、彼女は確かに“とり憑かせて頂きます”と言っていた。