秋の月は日々戯れに
当たり前のような顔をして彼を待つ、彼女の姿があった。
「……あなたが成仏してくれたら、俺は幸せになれると思います」
疲れたような呟きの中に、もし本当に幸せがどんどん逃げているのだとしたら、それは全てあなたという存在のせいだという思いを込めたのだが、なぜだか彼女は照れたように笑っている。
「それは、遠まわしな愛の告白ですか」
なぜそうなる!――彼女の思考回路は全くもって理解不能で、彼はまた諦めたようにため息をつくと、彼女の脇を通り抜けて歩き出す。
先日初雪がチラついたこともあって、めっきり寒さが増してきた今日この頃、吹き付ける風の冷たさに思わず首を縮こめる。
そろそろ冬物の厚いコートを出さなければ、などとぼんやり考えながら歩いていると、不意に背筋がゾクッとした。
覚えのある感覚にゆっくり視線を向けてみると、案の定にこにこ笑って腕を絡める彼女がいる。
どうせ言ったって聞き入れやしないと思えば、なんだかもう“やめてください”も“離してください”も口にするのが億劫になって、真一文字に唇を引き結んだまま、這い上がって来るような寒気に耐えながら、最寄りのスーパーまでの道を急いだ。
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