秋の月は日々戯れに
Tシャツにジャージというラフな部屋着姿のまま、彼は冷たく言い放って、キッチンスペースに立ってやかんでお湯を沸かす。
一人暮らしを始めた頃からずっと住み続けているワンルームの部屋は、物が少ないせいでやや殺風景だが、男の一人暮らしにはこれくらいが丁度いいし、おかげで間取りの割に狭く感じないというメリットもある。
ただそこに、予想外の存在がいるだけでそれも違ってくるが。
「ところでわたしの旦那様、いえ、あなた。この服、どう思いますか。やっぱりちょっと子供っぽいですかね」
気安い“あなた”という呼び方が気に入らなくて振り返ると、ベッドから下りた彼女がワンピースの裾を摘んで、思案顔で答えを待っていた。
「別に、いいんじゃないですか。幽霊なんて皆そんなもんでしょ。それより、その呼び方やめてください」
大体、代えの服なんか持っているのかと逆に問いたいが、興味があると思われても困るのでそこは聞かないでおく。
けれどその答えが気に入らなかったのか、彼女は裾を摘んだまま、ムスっとした顔で近づいてきた。