秋の月は日々戯れに
「ウィンナーとプチトマト……あっ、かに風味かまぼこも安いです!買っていきましょう」
「カニカマって言えばいいじゃないですか……なんでわざわざ」
「そう言えば、うちにはお味噌がなかったですね。それも買っていきましょう!」
「必要ありません。味噌汁を毎日飲む習慣もないですし、飲みたくなったらインスタントで十分です」
あれやこれやと楽しげに品物を指差す彼女は、やっぱり足元が透けている。
それは、すれ違う店員や奥様達とは明らかに違う異質さで、彼女がこの世のものではない確かな証。
魚売り場の前で立ち話をしているおばさん達の横から「すみませーん」とやや押しのけるようにして入って行っても、肉のパックに値引きシールを貼っている店員の横で「その右隣のやつはお安くならないんですか!」と騒いでいても、誰も気にも止めないし彼女の方を見ようともしない。
こんな時、彼女は間違いなく幽霊であるという事実を再確認する。
「今日はマグロのお刺身が安いですね……。たまには焼き魚もいいかと思っていましたが、こうなるとお刺身定食でもいいかな……」
定食と言うことは、何がなんでも味噌汁を付ける気か、どんだけ味噌汁を引っ張るんだこいつはと思いながら後ろを歩いていると、彼女は不意に牛肉のコーナーで立ち止まった。