秋の月は日々戯れに
「あなたは、本当に幽霊なんですね」
帰り道、何気なくポツリと呟いた彼の言葉に、少し前を歩いていた彼女が振り返って可笑しそうに笑う。
「何ですか、改まって。ご自分でいつも仰っているじゃないですか“あなたは幽霊でしょ”って」
それはそうなのだが、こんなにもはっきりと姿が見えてしっかりと会話ができていると、時々彼女が幽霊だという事実が頭の中であやふやになる。
「確かにわたしは幽霊です。この通り、足も透けていますし、体温もありません。でも、あなたにはわたしの姿がちゃんと見えていて、こうして会話が出来ているんですから、生きているか死んでいるかなんて大した問題ではありません」
生きているか死んでいるかは大変大きな問題だと思うのだが、彼女にとっては問題にもならないようなささいな事であるらしい。
“この通り”のあたりでくるりと回った彼女は、ふわっと微かに広がったワンピースの裾を摘む。
おかげで透けた足がとってもよく見えるが、それ以上あげたら中まで見える。
その危機感のなさに内心で呆れ返りながら、見える前に視線を逸らそうとしたら、彼女が声を上げて笑った。