秋の月は日々戯れに
「あっ!?トイレットペーパー!!」
突然大声を上げて立ち止まった彼に、彼女もビクッと足を止めて振り返った。
「何ですか、もう。いきなり大きな声を出さないでください」
「心臓が飛び出るかと思いました」なんて言いながら、心臓なんてあるはずもないのに胸の辺りを押さえる彼女。
今しがた歩いてきた道を振り返り、今度は進行方向、彼女を通り越して家のある方向をしばらく眺める。
せっかく買い物をしに出てきたのだから、この機会に済ませておきたい気持ちはあるのだが、戻るのが億劫になる距離まで来てしまったことと、予定外の出費で軽くなった財布が彼の気持ちを揺らがせる。
「……あなたが余計なものを買いまくったせいで、買いたかったトイレットペーパーを忘れたじゃないですか!」
「突然大声を上げたかと思ったら、今度は逆ギレですか!?大体、トイレットペーパーを買いたかったなんてわたしは聞いていませんし、余計なものなんて何一つ買っていません。全部あなたのためを思って選んだものばかりです!」
キッと彼女を睨みつけて声を荒らげれば、間髪入れずに返ってきたセリフにまた怒りが湧き上がる。
こんな幽霊、やっぱり連れてくるんじゃなかった。