秋の月は日々戯れに
社内では、何を考えているのか分からないがとにかく仕事の出来る奴と評され、当然同僚も同じような印象を抱いていたのが、今この瞬間に少しだけ改まる。
驚きと共にまじまじと見つめられるとなんだか居心地が悪くて、それもこれも全部彼女のせいだと、睨みつけるようにして後ろを伺うと、当の本人はすっかりすまし顔で微笑みを浮かべていた。
その顔がなんだか腹立たしくて、何か言ってやろうと口を開きかけた瞬間に、ハッとして同僚の様子を伺う。
見れば、同僚もまた彼の視線の先を追いかけるようにして後ろを伺い、そこに立つ彼女にしっかりと焦点を合わせてぺこりと頭を下げている。
どうやら、見えているようだ。
「かの……あっ、間違えた。奥さんか」
「違う!」
「妻です」
聞こえたセリフは看過できないものだったから咄嗟に突っ込んだが、間髪入れずに彼女も後ろから声を上げる。
“違う”と“妻です”は、ほとんど同時に同僚の耳へと届いた。
にっこり笑って頭を下げ返す彼女を隠すように一歩横にずれ、これ以上話がややこしくなる前に即座に話題を変える。
「買い物か?そっちも卵買いに」
「えっなに、今日は卵安いの?じゃあ帰りに買っていこうっと」