秋の月は日々戯れに

どうやら同僚がここにいた訳は、安売り卵狙いではなかったらしい。

けれど、話題が逸れたことはこれ幸いと彼は続ける。


「でもお前の家からだと、この辺ちょっと遠いよな。もっと近くにスーパーないのか?」


昨夜タクシーに押し込んだ時にチラッと聞こえた住所を思い出しながら問いかけると、同僚がやや驚いたような顔をしたあと「ああ!」と何かを思い出したような声を上げて苦笑する。


「なんであたしの家知ってんだこいつ、ひょっとしてストーカー……?って一瞬思ったけど、そっかあんたがあの時タクシーに乗せてくれたんだもんね。その節はどうも」


ペコッと頭を下げた同僚のセリフ内に聞き捨てならないものがあったから、一応「おいこら」と厳しい顔で突っ込んでおく。

後ろから「タクシー……それは、どういうことですか」と微かに怒気を孕んだ声が聞こえたような気がしたのは、気のせいとして放っておいた。


「買い物に来たわけじゃないんだ。ちょっとね、歩きたくなったの。だから適当に歩いてたら、こんなとこまで来ちゃった」


へへっと笑った同僚の顔には、どこか力がない。
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