秋の月は日々戯れに
「たまにはさ、歩いてみるのもいいもんだよ。今日は寒いけど、割りと天気はいいし。卵の安売り情報も手に入れられたし」
上機嫌に笑ってみせる顔にも声にも、やっぱりどこか覇気がない。
具合でも悪いのだろうか、それとも他に何か――と考えていたところで、思わぬところから声が響いた。
「ここでこうしてお会いできたのも何かの縁です!せっかくなので、我が家で少し休憩していかれませんか?」
考えていたことを頭の中からすっぱり消し去って勢いよく振り返れば、彼を通り越して同僚を見つめて微笑む彼女がいる。
「聞きたいことも……いえ、お話したいことも色々と」と続けた時、一瞬こちらを向いた目はなぜだかちっとも笑っていない、というよりむしろ怖い。
「お家は、ここから少し遠いのでしょう?だったら、冷えた体を一度温めて、それから帰路につかれるのも悪くないと思いますよ」
「温かいコーヒー、お出しします」と言う彼女に、家は喫茶店じゃありません!と反論しようと開いた口が、言葉を発する前に今度は別の方向から遮られる。