秋の月は日々戯れに
彼と彼女と同僚の話2
「お邪魔しまーす!」
「いらっしゃいませ。お待ちしていましたよ!ちょうどいい具合に、お鍋も煮えたところです」
勝手知ったるとばかりに主より先に靴を脱いで上がり込む同僚を、彼女が笑顔で出迎える。
その後ろに、疲れきった顔の彼が続いた。
「ううー、いい匂い!やっぱりこの季節は鍋だよね」
「ですね!寒い時には、やっぱり熱々お鍋に限ります」
「あたし、寒いのは嫌いだけど鍋は好きだから、結局この季節が嫌いになれないんだよね」
楽しげに笑い合う二人の姿を、部屋の入口から眺めていた彼は、堪らず深くため息をつく。
この間初めて顔を合わせたばかりだというのに、なぜ昔からの友人のような気安い雰囲気で談笑しているのか不思議でならない。
「そんなところで何をしているんですか?あなたも、こっちに来て座ってください。立ったままでは、鍋パーティーが始められません」
「”あなた”だって、お鍋より断然熱々だね。あっ、手伝うよあっきー!」
ニヤニヤと彼に向かって意味ありげに笑ってみせた同僚は、取り皿や箸などを取りに行った彼女を“あっきー”と呼ばわって、共にキッチンスペースに向かう。
それにまた、ため息が零れ落ちる。
不本意ながら彼女と一緒に買い物に行くことになったあの日、帰り道で偶然会った同僚をなし崩し的に家に上げてしまったことを、彼はあれからずっと激しく後悔していた。