秋の月は日々戯れに
同僚は自分の隣にいるのが幽霊だなんてちっとも気がついていない様子で、彼女との女子トークを楽しみ、いい加減にしてくれと彼がタクシーを呼ぶまで、帰る素振りを微塵も見せなかった。
それからというもの、最低でも週に一度、ひどい時は二度程こうして彼の家に晩ご飯を食べに訪ねてくるようになった。
「お前さ……確か三日前も来たよな?」
「あの時の親子丼、美味しかったよ!あっきー」
「ありがとうございます」
「いや、あれは親子じゃないだろ。卵と玉葱だけで、鶏肉入ってなかったんだから。あと作ったの俺だし」
「嫌だね、細かい男は」
「でも、そんなところもわたしは嫌いじゃないです」
きゃー!と同僚がジタバタ手足を動かす度に、持っていた取り皿がカチャカチャと危うげな音を立てる。
「やめろよ、下に響くだろ。あと、何の悲鳴だよ」
流石に立っているのも疲れてきた彼は、ベッドへと向かいながらジャケットのボタンを外してネクタイを緩めていく。
「なんのって、あっきーの惚気けに対する悲鳴に決まってるでしょ。てか、まさかとは思うけどここで着替えたりしないよね?あっきーはいいとしても、あたしはお客さんなんだから気を使って」
お前が気を使え!と心の中で叫んでから、彼はため息を一つ零して着替えを手に風呂場へと向かう。