秋の月は日々戯れに

二人に見られずに着替えが出来る場所といえば、もう風呂場かトイレしかない。

なぜ自分の家なのに、追いやられるようにして部屋の外で着替えをしなければいけないのか――言ってもしょうがない不満を、代わりにため息として吐き出す。


「あっ、くれぐれもお風呂はご飯のあとにして、着替えだけして戻ってきてくださいね!お鍋はもうできているんですから」

「だってさ、旦那さん」


妙に張り切った彼女とニヤニヤ顔の同僚に見送られ、もう返事をするのも億劫で、彼は無言で風呂場へと急ぐ。


「今日は何鍋?」

「寄せ鍋ですよ。色んな具材達が、お出汁の中で身を寄せ合っています」

「独特な説明だね、あっきー」


風呂場にまで聞こえてくる二人の楽しげな声。

なぜか嫁入り気分でとり憑いてきた幽霊の存在にはいい加減慣れたが、そこに同僚が加わっているこの状況が、彼にはどうにも理解できない。


「ここ、俺の家だよな……」


ボソっと呟いた言葉に答える声はもちろんなく、脱いだスーツの代わりに、持ってきていたジャージとTシャツをのろのろと身につけていく。


「うわっ、なにこれ!?エビ入ってる!豪華だね」

「はい。今日は鍋パーティーなので、奮発しました!頭つきですよ」
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