秋の月は日々戯れに
その感想に密かに彼は、やはり作ったのは彼女で間違いないと確信した。
彼女の料理はいつだって、不味くはないけど特別美味しくもない、そんな微妙なラインをついてくる。
さらに言えば、見た目もちょっぴり歪。
「一応聞きますけど、出汁も含めて今日のこの鍋の中で、あなたが作ったのはどれですか」
何となく予想はついていたが、それでも確認の為に問いかける。
そんなことを聞かれるとは思っていなかったのか、彼女は一瞬キョトンとしたあとでグツグツ煮えているお鍋の中を青白い指で指し示した。
「お出汁は市販のお鍋の元で、野菜とお肉はお鍋用のセットで、もう丁度いい大きさに切ってあったので入れるだけでしたし、エビも入れただけです。なので、わたしが作ったのは、この鶏団子だけですね」
返ってきた答えは予想通りで、彼は自分の皿に盛られた鶏団子を見て、それから誰よりも先に鶏団子を口にした同僚の微妙な表情に視線を移して「そうですか」と密かに箸で団子を皿の端に寄せた。
もちろんそのあとすぐ、それを見とがめた彼女に、なぜ端に寄せたのかと激しく追求されたのは言うまでもない。
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