秋の月は日々戯れに
「食後のコーヒーはいかがですか?」
「あっ、はーい!欲しい、欲しい」
「はい」と笑顔で頷いた彼女がキッチンスペースに向かったのを見計らって、彼もまたさりげなく立ち上がり、その手が不自然に何かを浮かせたりする前に、すかさず横から手を伸ばした。
「俺がやりますから」
有無を言わせず、ほとんど彼女を押しのけるようにしてキッチンに立つと、カップを二つ出してそこにコーヒーの粉を入れる。
その隣では、押しのけられた彼女がほんの少しむくれて彼を見上げていた。
「わたし、もうキッチンをぐちゃぐちゃにしたりしません。コツを掴んだって言ったでしょ。だからコーヒーくらい、ちゃんと淹れられます」
そういう問題ではないのだが、説明するのが面倒くさいので、彼は無視してやかんでお湯を沸かす。
それですっかり機嫌を損ねた彼女は、しばらくムスっと膨れていたが、お湯が沸く段階になるといつの間にかそこからいなくなっていた。