秋の月は日々戯れに
「いやいや、それは優しさでしょ。あっきーを想うがあまりのってやつだよ。火傷したら危ないなーみたいな」
「それならもっと分かりやすく、表情にも優しさを出してもらいたいです!わたしといる時、あの人はちっとも笑わないんですよ。ほぼ無表情か、怒っているかのどちらかです」
「それは会社でも同じだよ。愛想笑いとか苦笑いしてるのはしょっちゅう見るけど、あいつが本気で笑ってるとこなんて、多分誰も見たことない」
おそらく自分の話をされているなと何となく背中に感じながら、彼は黙々と沸いたお湯をカップに注ぐ。
「そうなんですか……。それは、なんというか……是非とも笑わせてあげたいところですね。妻として」
出来上がったコーヒーを手にした瞬間、嫌な予感がゾクゾクっと背筋を駆け上がって行って、振り返った彼の視線と彼女の視線がぶつかる。
にっこりと微笑まれれば、ますます嫌な予感は増していく。
「何ですか」
「いえ、別に何も」
何も、なんて顔ではない、絶対になにか企んでいるとは思ったが、彼がなにか言い返すより先に、同僚がわざとらしく盛大なため息をつく。