秋の月は日々戯れに
年齢が判別しづらいように、その顔は可愛いとも美人とも、どちらとも形容し難いものがあるが、中々にレベルは高い。
だからって、ときめくなんてことは全くなくて、ただひたすらに挟まれた頬が冷たくて、鳥肌が止まらない。
いい加減離してくださいと言いたくて口を開くと、さっきまでぷりぷりと怒っていた彼女の表情が唐突に崩れた。
「えへへ……やっぱり近くで見ると素敵ですね。流石わたしの旦那様です!」
「……旦那じゃありません」
否定する声に勢いが乗らなかったのは、寒気と鳥肌と頬の冷たさに耐えられなかったから。
間違っても、彼女が頬を緩めてあまりにも幸せそうに笑っていたからではない。
固定された顔の代わりに視線だけで他所を向くと、彼女が「あっ」と声を上げる。
「また目を逸らした。妻の顔を真っ直ぐに見られないとは、さてはやましい事がありますね!正直に言えば許してあげないこともないですよ。内容にもよりますが」
なんだか否定するのも面倒くさくなってきたが、ここで黙っていては妻であることを認めたようなものなので、それだけは阻止するべく口を開く。