秋の月は日々戯れに
ようやく振り向いた彼女が、ほんの少しいたずらっ子のような笑みを浮かべて、下から伺うように彼を見やる。
「なら、せっかくなので本当に結婚してしまいましょうか」
「“せっかく”の意味が分かりません。それに、本当も何も俺たちはそもそも夫婦じゃありませんから」
彼がふいっと視線を逸らしてカップに口をつけると、彼女が可笑しそうにふふっと笑う。
「そんなこと言っても、さっきは一度も否定しませんでしたよね。わたしが“あなた”って呼んだ時も、同僚さんが“旦那さん”って呼んだ時も。バカ夫婦って言われた時なんか、否定したのは“バカ”の部分だけでした」
言われてみれば全てその通りで、改めて指摘されると、まるで夫婦であることを認めたみたいでなんだか無性に恥ずかしい。
彼女が嬉しそうにそれを指摘してくるから尚更に。
「うっかりして、言いそびれただけです。それに、どうせ言ったってあいつは信じませんし。今まで何回否定したと思ってるんですか」
今更感が漂うが、それでも彼が半ばムキになって言い訳すると、彼女が可笑しそうにまたクスクス笑った。