One Night Lover

竜は華乃を自分のマンションに連れて行った。

エレベーターの中で華乃にキスをしたが
華乃はもうそれを拒めない。

華乃は部屋に入るとその眺めに驚いた。

東京タワーが正面に見え、
自分の住む街を見下ろせるその場所に
華乃は藤ヶ瀬とは住む世界が違う事を見せつけられた気分だった。

華乃が窓の外を見ていると
竜の手が華乃を背後から抱きしめる。

華乃はビクンと身体を固くした。

「華乃…っていい名前だな？」

そして華乃の耳に口づける。

華乃の身体がまた熱くなる。

そして竜はその手をゆっくり下げて行く。

華乃は震えていた。

あの時の大胆な華乃はそこには居らず
まるで初めてのように怯える華乃を可愛いと思った。

華乃は流されるままここに来てしまったことを今はかなり後悔している。

竜が華乃の服を脱がそうとすると
華乃が焦ってその手を止めた。

「ごめんなさい。

やっぱり…今日は帰らせてください。」

華乃は藤ヶ瀬から離れるとバッグを抱え
部屋を出て行こうとした。

「婚約者が気になる？」

帰ろうとする華乃の脚が止まった。

「ここまで来て今さら彼氏に悪いとか？

もう完全に浮気だろ？」

華乃はまた泣きそうな顔をする。

「結婚式はいつ？」

「まだ決まってません。」

「決まってないなら別れればいい。」

「そんなに簡単じゃないです。」

藤ヶ瀬が華乃に近づいて来て華乃の頰に触れる。

「お前はもう俺のモノだよ。」

竜は華乃にそう言ってまたキスをする。

帰ると言ってたくせに
華乃はまた抵抗せずにそのキスを受け入れた。

竜は華乃の揺れ動く気持ちに気がついている。

今、押せばきっと堕ちると思った。

しかし簡単に堕とすのは少しつまらない。

ゆっくりと焦らして、華乃の方からやって来るのを待つのもいいと思った。

「なんかシラけたな。もう帰っていいよ。」

竜はそれ以上何もせずに華乃を帰した。

華乃は急に帰れと言われて戸惑ったが
今は帰るべきだと思った。