One Night Lover

華乃は席に戻ってしばらく何も手に付かなかった。

《お前のことが…気になる。》

藤ヶ瀬のその言葉に華乃の気持ちは揺らいでいる。

華乃がその余韻に浸っていると

「池田さん、旦那さんが呼んでますよ。」

と隣の席の社員が声をかけて来た。

ドアの方を見ると健が不機嫌そうな顔で立っていた。

「さっき上から話もらった。

今夜、青山に新しく出来る店のオーナーと打ち合わせして来いって。」

「店って文具店？雑貨店？」

「いや、洋食屋みたいだ。

なんでもそこはちょっとしたスペースに雑貨や椅子なんかの家具も置くらしい。

で、そこのオーナーがその店オリジナルの文具も置いて販売したいそうだ。

とにかく拘りが強い人で、輸入したものじゃなくてmade in Japanで質の良いものに拘ってるらしい。

家具も雑貨も全て日本製のオリジナルだ。」

華乃はその店を健と一緒に担当する事になった。

今日は藤ヶ瀬が担当者の挨拶に健と華乃を連れて行くという話だった。

「それでどうするの？」

「もちろん引き受ける。

雑誌に載るような話題の店だし、
オリジナルのデザインをさせてもらえるんだ。」

健はデザインを任せられ、少し機嫌が良くなったが
華乃は健と藤ヶ瀬に挟まれて苦労する気がして不安になった。

《お前のことが…気になる》

その言葉が華乃の頭の中から離れなかった。