One Night Lover
「先輩、そんな事するからダメなんですよ。」

「え?」

「そういう優しさがダメだって言ってるんです!」

渉は昨日華乃が言ったことを思い出したかのように言った。

「華乃の事は可愛い。

本当に可愛い妹だからこれからも変わらないよ。」

こういう男が一番厄介だと華乃は思ったが
昨日、あの男に抱かれた事で嘘のように吹っ切れていた。

もう自分はあの頃みたいな純粋な女じゃないと勝手に思い込んで大人になった気でいる。

「先輩、もう卒業ですね。」

「うん、でも職場もこの近くだからたまにはこうやって食事行こうな。」

本当に妹なんだなぁと華乃は再度釘を刺された気分だった。

それでも「はい。」と頷いた。

ずっと渉を頼って生きてきた華乃にとって
その存在を失くすのはやはり悲しい。

妹ポジションでそばに居るのも悪くないと思った。

こうして渉は卒業し、華乃の初めての恋は終わり
それから2年が過ぎる。

華乃はあれからまだ誰とも恋をしていない。

時々あの夜のことを思い出して身体が熱くなることがあっても
他の男には全くときめかなかった。

行きずりの男との関係が衝撃的だったのか
あの男との一夜が忘れられず
華乃は自分は少しおかしいんじゃないかと思うくらいだった。

あの男の顔の記憶はもうほとんど定かではない。

ただあの声と身体の記憶が頭から離れなかった。

「気持ちいいか?」

時々その声を思い出す。

華乃は身体が熱くなると自分の指でその記憶を辿った。

そしてそれが終わると酷く落ち込んだ。

「22にもなって何やってるんだろ。」

そう言って大きな溜息をついた。
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