One Night Lover
その頃、竜には縁談が持ち上がっていた。

しかし竜はもう何度もこういった話を断っている。

竜には兄がおり、
兄は父親の望んだ相手と結婚して
父の会社の役員になっているが
竜はそのレールから外れていた。

父の会社に勤めることもせず
結婚話は全て断り、
自分は好きに生きると決めている。

「今度こそ結婚してもらう。」

と父が強くすすめているが竜は決してそれに従おうとしなかった。

「竜はあの女と本当に別れたんだよな?」

父は竜の行動をずっと人を使って監視している。

「彼女はもう五年も前に竜さんの友達だった川久保聖司と結婚してます。」

「2人は会ってないだろうな?」

「はい、結婚後は一度も会ってません。」

父は竜の中に未だあの時の女が居ると思っている。

あの時の女とは竜が5年前、
華乃と寝るキッカケを作った女だった。

竜は高校の時、有名な私立の高校で問題を起こして
公立の高校に編入して来た。

そして同じクラスの浅見菜那を一目見て恋に落ちた。

積極的にアプローチして、学校のマドンナ的存在でありながら誰の恋人にもならなかった菜那をたった3日で口説き落として恋人にした。

竜には幼馴染みの川久保聖司という親友がいて、同じ高校だった3人でよく遊んだ。

その時、竜は全く知らなかった。

親友の聖司も菜那のことがずっと好きだったなんて
思いもしなかった。

聖司はいつも竜の相談に乗ってくれたし、
竜と菜那が喧嘩した時も間に入って修復してくれたほどだ。

3人の関係はそのまま変わることなく
社会人になるまで続いた。

竜が24の時、初めて父親から縁談の話をされた。

「政略結婚みたいだな。

冗談じゃない!俺には好きな女がいる。

知ってるだろ?」

「遊ぶのは勝手だが結婚は違う。

彼女の家は父親も居なくて
母親が男と酒を飲んで育てた娘だろ?」

菜那は母親が不倫の末、結婚出来ずに生まれた子供で
家庭環境は竜と大きく違っていた。

父親はそんな菜那を嫌悪して
竜に相応しいと思う良家の娘を探して来ては見合いさせようとしていた。

「菜那のこと調べたんだな?

いい加減にしてくれよ!」

「いいか?結婚は後でもいいが、婚約だけでもしろ。

それまでにあの女とは別れろ。」

しかし竜は決して菜那を諦めなかった。










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