One Night Lover

あの時、もし父が倒れてなかったら
竜は華乃とどうなっていたのだろうか？

竜は結婚のことで父と言い争った後、
そんな事を思い出していた。

菜那とのことを考えると何故か華乃に逢いたくなった。

真っ暗な部屋で東京の夜景を見下ろしながら
竜は華乃に電話をかけた。

「は、はい。」

華乃はいきなりかかってきた電話に驚いたが
どうせ仕事の話だろうと思っていた。

「…少し逢えないか？」

「え？」

「あのクラブで逢おう。」

竜は華乃の返事を待たずに電話を切った。

華乃は部屋で健を待っていたが
急いでカーディガンを羽織ると外へ出た。

大通りまで走ってタクシーを待ったが
なかなか来なくて地下鉄に乗った。

健から電話が入ったが
華乃は地下鉄の中で電話をとらなかった。

クラブに入ると華乃はただ藤ヶ瀬の姿を探した。

名前を呼んだところでこの音楽にかき消される。

華乃は藤ヶ瀬の姿が見つからずに不安になった。

その時、華乃の腕を誰かが掴んだ。

藤ヶ瀬だと思って振り向くと
全然違う男が華乃を見て微笑んだ。

華乃は

「すいません、人探してるんです！
離してください！」

と大きな声で叫んだが男には聞こえないようだった。

華乃の手を掴んだまま男は華乃を見つめて踊る。

華乃がその腕を振り解こうとすると
男は華乃の腕を自分の方に引っ張って
華乃は男の胸に引き寄せられた。

そして無理矢理抱きしめられる。

「俺と遊ぼう。」

男が耳元でそう叫んだ。

華乃は男から逃げようとしたが
男は酔っていて華乃を抱きしめたままリズムをとってふざけている。

華乃が困ってるといきなり藤ヶ瀬が来て華乃と男を引き離した。

「お兄さん、この子と先約があるんだ。

悪いけど離れて。」

と藤ヶ瀬が叫んで酔った男は華乃を強引に抱きしめていた腕を離した。