One Night Lover
華乃は藤ヶ瀬に腕を引かれ
ホールから離れて会話ができる場所へ移動した。

「ったく、あんな男につけ込まれて
ああいうのを断れないでどうする?」

華乃はその手の温かさに安心する。

「部長、今日はどうして…」

「ここで役職名で呼ぶな。」

華乃はその意味をまだわかってない。

「何てお呼びすれば?」

「呼ぶな!黙ってろ!」

そう言うと竜は華乃を抱き寄せた。

その時、また華乃のポケットに入っているスマートフォンのバイブの振動が身体に伝わった。

その相手が健だと華乃は分かっている。

振動は竜の身体にも伝わった。

「出ないのか?」

「え?…あー…」

華乃はポケットに手を入れてかかって来た電話を切った。

「なるほど…杉崎からか?」

「大丈夫です。」

「結局はお前も婚約者を裏切るんだな?」

「え?」

竜は急に不機嫌になった。

華乃が菜那のように男を簡単に裏切るところを見たからだ。

「部長…私は…」

「もういいよ。帰れ。」

華乃はまた急に冷たくなる藤ヶ瀬が理解できない。

「振り回して面白いですか?」

「お前はあまりに簡単でつまらない。」

そう言うと藤ヶ瀬は出口に向かって歩いていく。

華乃はその後を懸命に追いかけた。

そして藤ヶ瀬の腕を掴んで引き留めた。

「待って下さい!

簡単だって思うかもしれないけど…
そんなに簡単じゃなかったです!

部長は私の気持ちなんか分かってないと思うけど…

私はあの日から1日だって部長のこと忘れられなかったんです!」

そんな言葉を素直に受け止められるほど今の竜は純粋じゃない。

「やっぱ簡単なんだよ…お前。」

華乃が今にも泣き出しそうな顔をした。

女に泣かれるのは苦手だった。

だから竜はそんな華乃の腕を引いて外に出た。







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