One Night Lover
秋の風が少し肌寒くて、華乃は藤ヶ瀬の身体に寄り添った。

竜は上着を脱いで華乃の肩にかけた。

オリエンタルウッディーな香りに包まれて
華乃はあの夜の記憶を思い出した。

あの日、クラブでキスされた時、この香りに酔った。

「部長…」

「だから役職で呼ぶなよ。」

「じゃあ何て呼べば?
藤ヶ瀬さん?竜さん?」

竜はその口を塞ごうと華乃に近づく。

唇が触れそうな距離まで接近した時、
華乃の電話のバイブが作動した。

華乃は迷ったが、その電話に出た。

「もしもし…健?

ごめん…私…やっぱり…健とは結婚できない。

他に好きな人がいる。」

華乃は藤ヶ瀬を見つめながら、
健にそれだけ言うと電話を切った。

「私は…部長の事が…あの時からずっと忘れられないんです。

もう二度と会うことも出来ないだろうし…忘れようと思って…健と付き合ったけど…

また部長と出逢ってしまって…気持ちが揺れて…

ダメだって分かってるけど…どうにもならなくて…

だから…健とは結婚出来ないです。

こんな気持ちのまま…結婚したら健だって幸せじゃなくなる。」

竜を見つめながら泣きそうな顔で華乃は告白してきた。

「それは俺じゃなくて杉崎に言えよ。」

そう言うと竜は華乃を抱き寄せてキスをした。





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