One Night Lover
結局、その夜も藤ヶ瀬は華乃を抱けなかった。

今の杉崎健があの時の自分と重なったからだ。

明け方華乃が部屋に戻ると健が部屋で待っていた。

健は今の華乃の様子がおかしいことにも気がつかないほど動揺していた。

「いきなり結婚できないってどういうつもりだよ?」

もちろん華乃は今、そんな話をできる余裕はなかった。

「ごめん、疲れてる。
今夜、ちゃんと話そう。」

「今まで誰と居た?
お前、その男と寝て来たんだろ?」

もちろん華乃はその質問には答えなかった。

「華乃!こっち向けよ!」

振り向いた華乃は泣いていて、
健はやっと華乃に何かあった事に気がついた。

「か、華乃?何があったんだよ?
誰が華乃をこんなに泣かせたんだよ?」

華乃は何も言わずにただ泣いて
健が抱きしめようとする手を拒んだ。

いま、抱きしめられたらまた健を傷つける。

「ごめん、帰って。

今は…何も話したくない。」

健は泣いてる華乃を置いて帰れなかった。

「華乃…そんなにお前のこと泣かせるような男なら俺は引かないよ。」

華乃が拒めないように背後から華乃を抱きしめて
その髪にキスをする。

華乃はこのまま健に甘えてしまいそうになったが
心には藤ヶ瀬が居てどうにもならないのだ。

「ごめん…健の気持ちにはもう応えられない。」

そう言って健の腕を解いた。

「冷たいんだな。

結婚まで考えた男を簡単に捨てられるほどアイツが好きなのかよ?

お前の好きな男って藤ヶ瀬部長だろ?」

答えたくなかったが
いつかはわかることだ。

「うん。…ゴメン。」

健は頭が真っ白になった。

そして部屋を飛び出した。

今の華乃はあまりに残酷でこれ以上華乃のそばに居たくなかった。

わかってはいたが、ハッキリ口に出されるとかなり衝撃的だった。








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