One Night Lover
華乃はまた自分が異動になることに納得がいかなかった。

いくらなんでもたかが噂で華乃が暴力を振るった訳でもないのに
健の婚約者というだけでまた飛ばされるのだ。

結局、噂の張本人である藤ヶ瀬には何の罰もなかった。

華乃はまた一から仕事を覚えなくてはならないし、周りからは好奇の目で見られた。

「あの藤ヶ瀬部長が手を出した女だって言うからどんな子なのかと思ったら…
案外大したことないじゃない。」

「たかが噂でしょ?
あんな子藤ヶ瀬部長が相手にする訳ないじゃない?」

給湯室ではそんな話をされ、
男性社員にはやたらと誘われた。

「池田さんて、可愛い顔して実は相当遊んでるらしい。

杉崎は騙されたんだよ。」

「俺も華乃ちゃんに遊ばれたいなー。」

「あの藤ヶ瀬さんとねー。

相当なやり手じゃねーの?」

男性社員にはランチの席や喫煙所で有る事無い事噂にされた。

健の考えなしの行動で一番被害を受けたのは華乃だった。

その夜、健が華乃の部屋に謝りにやってきた。

「華乃、マジでゴメン…俺が軽率だった。

こんなことになって…どうしたらいいのか…」

「もういいよ。

健を責める気はないから。

元はと言えば私が健を裏切ったんだし…」

それでも健は華乃が自分のせいで中傷されて
たったの3ヶ月でまた違う場所に異動されるなんてあまりに申し訳無かった。

その時、華乃の部屋に藤ヶ瀬も訪ねようとしていた。

竜は華乃の部屋に来る間、何度も連絡したが
華乃がその電話を取らず、連絡できないまま既に部屋の前まで来ていた。




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