One Night Lover
chooser
その日、華乃が紺野深鈴から頼まれた資料を夜遅くまでかかって集めていると
健も会議室でプレゼンの資料をまとめていた。

「まだ居たんだ?」

「うん、もう帰るけどな。

池田は?まだ残業?」

「もう終わるよ。」

「ちょっと呑んで帰る?」

「あー、うん。いいけど…」

健とは犬猿の仲だったが、一番下っ端のアシスタントという立場での不満を時々一緒に飲みに行って発散している。

健は華乃が終わるまで、
スマホのゲームをしながら時間を潰していた。

「なんかさ、今エレベーター来た音しなかった?」

華乃が突然そんなことを健に言った。

「え、マジ?怖いこと言うなよ。」

「そうじゃなくて誰か戻って来たんじゃないの?」

「いや、こんな時間に誰も戻らないだろ?

もしかして…泥棒とか?」

華乃が仕事を終え、健と2人で見回りに行った。

誰がいるかわからずに暗闇の中を歩くとやけにドキドキしてくる。

「真っ暗だけどな。」

「だね。誰かが間違えてエレベーターのボタン押したのかも。

帰ろう。」

結局そのまま帰ることにして
エレベーターに向かった時、
ガタンと家具にぶつかるような音がまた聞こえた。

華乃と健は顔を見合わせて音のした方角へ再度向かった。

なぜか足音を立てないように声を殺して歩いた。

紺野深鈴の部屋の前で人の気配を感じて足を止める。

ドアの隙間から覗いてみると
月明かりで深鈴と葛城がキスをしているのがわかる。

深鈴の衣服は乱れ、荒い息遣いと
葛城が深鈴の身体に唇を這わす音が聞こえてきた。

華乃はこれ以上見たらいけない気がして
顔を伏せ、健の手を引き、
エレベーターに向かって音を立てないように2人で歩き始めた。

何となく気まずい感じがして
お互い口もきかないままエレベーターに乗った。



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