One Night Lover
「辞めるのか?」

華乃は反抗的に

「はい。」

と返事だけをして藤ヶ瀬の顔を見ようともしなかった。

「苦労して入った会社だろ?

このまま辞めて良いのか?」

「デザインが出来なくなったら私にはこんな会社ただの息苦しい監獄です。」

「監獄に入ったことなんか無いだろ?

ったく、何考えてるんだか…」

藤ヶ瀬にも責任があるから、簡単に華乃に辞めて欲しくはない。

「オレがデザイン室に戻してやる。

だからお前はもう少し我慢しろ。」

華乃は藤ヶ瀬のことなど今は信じられなかった。

自分を宣伝部から追い出した張本人は藤ヶ瀬だ。

「宣伝部にも引き止められなかったのに、デザイン部に戻せるわけないと思いますけど…。

それに私は雨来梨沙の事務所に行けるかも知れないんです。

今の会社よりよっぽど魅力があります。」

華乃は全く言うことを聞かなかった。

藤ヶ瀬はそんな華乃に苛立った。

「お前を手放したくない。」

藤ヶ瀬は本音を言って華乃を抱きしめた。

華乃は自分の心臓が壊れそうなくらい大きな音を立てて足元から崩れ落ちそうだった。

「お前はもうオレのモノだろ?」

そう言って藤ヶ瀬にキスされてしまった。

そのキスは華乃をまたあの時の藤ヶ瀬との夜に引きずり込んで華乃の身体を熱くさせた。

「会社もデザインも…
お前が望む通りにしてやる。

だからオレの側を離れるな。

いつも目の届く場所に居てオレを不安にさせるな。」

華乃はもう藤ヶ瀬の側から離れる決意が揺らいでいた。

そんな自分がダメだと分かっていても
自分は仕事より恋を取る女にはなりたくないと思っていてもその気持ちはどうにもならなかった。












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