One Night Lover

華乃は結局、家の近くの居酒屋で藤ヶ瀬と会うことにした。

個室のある洋風な居酒屋は華乃がよく渉と行った場所だった。

「華乃ちゃん、久しぶり。

全然来ないから心配してたんだ。

渉は？元気なの？」

コウさんと呼ばれている店長は多分藤ヶ瀬と同じくらいの年だろう。

ユニホームでもないけれどいつも黒いTシャツを着て、
元気いっぱいで感じがよくて、渉とアニメの話で盛り上がったりしていた。

「先輩、引っ越したんです。

この前逢いに行ったんですが元気でしたよ。」

「そっかー。

また来るように言ってよ。

渉くんと話せなくて寂しがってるって言っといて。」

「はい。

あの…コウさん、今日ちょっと個室使っていいですか？

会社の上の人と大事な話があって…」

「うん、いいよ。

タカシー！奥の３番の部屋、通して。」

入り口にいた、タカシくんという新人の男の子がやってきて軽く会釈をして
華乃は入り口から1番離れた小さな個室に通された。

藤ヶ瀬が来たのはそれから10分くらい経ってからだった。

「悪い。遅くなった。」

藤ヶ瀬はピンストライプの入ったダークグレーのスーツのジャケットを脱いで
華乃の前に座るとライトグレーのネクタイを緩めて袖をまくった。

華乃はその姿にドキッとする。

そしてそんな華乃をみつめて藤ヶ瀬は微笑んだ。

華乃はすでにもう藤ヶ瀬に恋をしている自分を止める自信は無かった。