One Night Lover
藤ヶ瀬はそんな華乃に気がついて並んだ料理を進めた。

「たくさん食え。」

華乃は藤ヶ瀬に気を遣わせた気がして
我に帰ると目の前の料理を黙々と食べ始めた。

そして少し酔いがまわると我慢していた思いを口にした。

「私って…やっぱり才能ないのかな?

健を見てると自己嫌悪に陥るんです。」

藤ヶ瀬はそんな華乃の危うさをあの夜の華乃と重ねた。

「お前にも才能はあると思うが…それをまだ活かせてないんだ。

もしお前に光るものが無かったらウチの会社に受かったと思うか?

出身大学は三流だし、コネもなければ賞を獲った経験もない。

そんなお前がどうして選ばれたと思う?

俺には分からないが…ウチの面接をしたデザイナーが多分お前のデザイン画を見て強く感じるものがあったんだろう。

それは杉崎に匹敵するくらいインパクトがあったんだと思わないか?」

華乃はその言葉で励まされる。

そして少し酔いが回った頭で考える事は
目の前の藤ヶ瀬とこれからどうしたいかという想いだけだった。

「部長…今日は何で私を誘ったんです?

また寝たいと思ったから?」

藤ヶ瀬はそんな華乃を呆れた顔で見ている。

「お前は簡単過ぎて手を出す気にもならない。」

華乃は身を乗り出して藤ヶ瀬の唇を目掛けてキスをする。

軽く唇が触れる程度だったが
それは藤ヶ瀬のタガを外した。

華乃が腰を下ろし悪戯っぽく笑うと
今度は藤ヶ瀬が身を乗り出して華乃の唇にキスをした。

頭が痺れるほど濃厚なキスで
華乃はもうこのままどうなってもいいと思った。

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