One Night Lover
雨来梨沙を紹介したのには訳があった。

華乃は出会った当時の雨来梨沙と同じ匂いがした。

そうでなければ元カノだった梨沙に婚約者だった華乃を紹介などしたくなかった。

2人とも女の子らしいデザインが得意で
華乃が描いたデザインを見たとき、梨沙と同じように華乃の作品は人を惹きつける魅力があった。

健は入社当時、華乃の才能を羨ましいと思っていたが
紺野美鈴の下でまだ開花する前に華乃は自分と恋に落ちて、健はその全てを捨てさせたのだ。

「正直、勿体ないと思う。

このままデザインの道諦めるのかよ?

華乃はここでやるより、雨来梨沙みたいなデザイナーと働いた方がいいと思うんだ。」

「それ、私と働きたくないって意味だよね?」

そんなつもりじゃないのにそう言われても仕方がない。

今はもう華乃が成功出来るように応援したいと思っているが
健への華乃の信頼は藤ヶ瀬を殴った時に壊れてしまったようだった。

そんな時、藤ヶ瀬にはまたもお見合いの話が舞い込んできた。

「諦めが悪いですね。」

「お前はまだあの女のことを忘れてないのか?」

「あの女?」

藤ヶ瀬は父が時々別れた菜那のことを持ち出すことを不思議に思っていた。

「菜那のことを言ってるなら、知ってるでしょう?

菜那はとっくの昔に人の妻になってますよ。」

「わかってるならいい加減、ちゃんと釣り合う女と身を固めてこの会社を継いでくれないか?」

「わかってますよね?
もう俺はこの会社で働くつもりも後を継ぐつもりもありませんよ。

俺に期待などしないで兄貴と上手くやってください。」

竜はまだ知らなかった。

この会社のために菜那が犠牲になっていたことも
今、菜那がどんな暮らしをしているかも。


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