One Night Lover

菜那は聖司と結婚して幸せになる道を選んだが
あれだけ愛し合った竜との思い出はなかなか消えなかった。

高校生の頃のまばゆい恋愛は大人になってからは同じようにしたくても二度と出来ないことを
誰もが後から気づく。

あの頃は竜とのことだけで頭が一杯だったが
今はそれだけ考えてる訳にはいかない。

大人になれば体裁を考え、打算も出て来る。

ましてや夫婦ともなると生活になる。

もともと聖司とは恋愛関係じゃなかった。

あの日、竜の父から母がお金を受け取ってしまい、菜那は母に裏切られた気分だった。

しかし今となっては自分のことを苦労して大学まで行かせてくれた母が目の前に見たこともない大金を置かれて
釣り合わないから別れて欲しいと言われた時の屈辱は計り知れなかった。

「どうせあんな家の男と一緒にはなれないし、
こっちだって苦労するのが目に見えてるのに結婚なんかさせる気もない。」

「だったら何でお金なんて貰ったの？
恥ずかしくないの？」

「菜那にもいずれわかる日が来るわ。
もう、あんな家とは関わりたくないの！
貰えるものを貰ったら終わりにするしかなくなるでしょう。」

母は結局その金を
その日のうちにほとんど使い果たした。

高級バッグやアクセサリーにそれらは消えて
母はそれを使うことなく、
菜那が結婚するときにその全てを菜那にくれた。

「良いものを持ってればどんな場所でも堂々とできるわ。
あなたのために捨てた私のプライドが少しでもあなたのプライドになればそれでいいわ。」

と母は言った。

竜と別れた当初は母がお金を受け取ったことが理解できなかったが
今は何となくわかる。

そしてあの時、全てを失ったと思うほど
落ち込んでいた菜那の相談に乗ってくれ、
慰めて側に居てくれたのが聖司だった。