One Night Lover
竜は菜那を見たとき、最初は菜那だと気づかなかった。

痩せ細り、暗い表情の菜那は竜と付き合っていた頃のキラキラした感じが微塵もなく、
生活に疲れ、覇気を失い、同年代の女性と比べても少し老けた印象だった。

「菜那…」

何と声をかけたらいいのかわからなかった。

「すまなかった。」

とにかく謝りたくて、それがどんなに遅いとわかっていても
謝らないわけにいかなかった。

「許してくれ。」

そう言って竜は涙を零した。

菜那はハンカチを取り出して竜に渡した。

「泣かないで。

あなたが悪いんじゃない。

あの時…聖司と逃げたのは私なの。

聖司…どうしてる？」

あんな辛い思いをしても菜那が心配するのは聖司のことだった。

「酒飲みすぎて身体ボロボロで今は入院してるけど大丈夫だよ。

今は酒もやめて飯たくさん食って元気で頑張ってるよ。」

「そう、良かった。

聖司に伝えてくれる？

また一緒に暮らせるようにお互い頑張ろうって。」

菜那はそれだけ竜に言うと席を立とうとした。

竜は菜那の腕を掴んで、ただひたすら頭を下げた。

「菜那…ごめん。本当に済まなかった。

お前を守れなくて…こんな辛い思いさせて…」

菜那は必死で謝る竜の手を取り甲を撫でて言った。

「逢いに来てくれて謝ってくれてありがとう。

これで竜とのことはいい思い出になった。

聖司のことお願いします。」

そう言って菜那は部屋に戻っていった。

竜は泣いた。

そして自分は父親と戦わなければ誰も守れないと思った。

きっと華乃のことも今のままの自分では
迎えに行ったところで不幸にするだろう。

そして竜はついに動いた。





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