イケメンエリート、愛に跪く
愛は室長にそう促されて勇気を出して一歩を踏み出したが、愛の目に入ってきたアナウンサー室の雰囲気は確実に違うものになっていた。
愛は以前のデスクとは違う場所に案内された。
窓の風景がよく見える皆より少し離れた所に置かれたデスク。
でも、しょうがない…
私はそれだけひどい事をしてきたのだから…
あの件以来、ストレスを感じると過呼吸を発症してしまう。
しばらくの入院治療とのんびりしたローカルラジオ局の職場のおかげで、外にいる時は発症する事はなかったのに、今、胸の奥に違和感を感じている。
愛は皆の見ていない場所で何度も深呼吸をしたり、通常の量より多めの薬を服用したりして、何とかその場をしのいで頑張った。
直接、誰かに何かを言われたわけではない。
でも、ふとした拍子に垣間見える若いアナウンサーの冷めた目つきは、愛の心に深い傷を負わせた。
「でも、私、柏木さんの生き方って好きですよ」
一年目の新人アナウンサーで性格が幼い佐々木美弥は、唯一、愛の味方だった。
「柏木さんは、正直過ぎただけ…
確かに不倫はいけない事かもしれないけど、好きという気持ちを隠さずに正直に答えた柏木さんは、私は好きです。
だから、前にみたいな元気な柏木さんに戻って下さいね」