イケメンエリート、愛に跪く



愛にとって、それからのハワイの日々は最高に幸せなものだった。
午前は舟の祖父母とまったりと家で過ごし、午後からは舟と車で遠出をする。
穴場のビーチを巡り波が緩やかな海ならば、愛は舟に抱かれ泳いだりもした。

雲一つない青い空とそれ以上の濃い青色のハワイの海は、愛のリスタートを切る場所としては最適だった。
舟との関係もきっと恋人同士なのだろう。
でも、そこにまだ踏み切れない愛がいた。

何度も体を重ね合わせ、舟に溺れている乙女のような自分がいる。
その反面、30歳を前にした冷静な自分が心配しブレーキをかける。

舟の心のこもったプロポーズまで、うやむやにしてしまう臆病な自分がいた。

そんな中でも、愛の心は舟の溢れるばかりの愛情を受けて前を向き始める。
過去を過去のものとして割り切る器用さを、舟と共に探っている。

でも、心の根っこに刺さった小さなトゲは、中々外へ出ていかない。
そのトゲはトラウマという厄介な物に形を変え、幸せになりたいと思う愛を苦しめた。

でも、このハワイでは、そういう事をなるべく考えないようにした。
舟の惜しみない愛情と、快適な気候、美しい風景、何もかもが虹色に輝いた今を大切に過ごしたい。

今まで考え過ぎて全て失敗してきた。
もう失敗はしたくない…


舟君という突然現れた私だけの救世主は、私を一生幸せにすると言ってくれる。

舟君…
信じてもいいのかな…
でも、本当は、信じる事が死ぬほど怖い…

もう谷底に堕ちたくないから……






< 113 / 163 >

この作品をシェア

pagetop