イケメンエリート、愛に跪く
翌日に帰国を控えた雲一つない快晴の朝、舟と愛はワイキキの方まで買い物に出かけた。
愛は乗りなれた舟の車の助手席から、外の景色を見ている。
愛の人生で三度目のハワイ旅行は、一生忘れられないものになるだろう。
心地よい風の匂いや、柔らかく降り注ぐ陽の光、そして舟の隣で見た素晴らしい景色たちを、愛は頭の中に何度もインプットした。
「舟君、私、よくよく考えてみたら、ハワイに来てから一度も薬を飲んでない…
東京に居る時は、精神安定剤や喘息の薬とか毎日毎回飲まないと、怖くて普通の生活ができなかったのに、ハワイに居るせいか、飲まなくても全然平気だった」
舟は、そうやって嬉しそうに話している愛を横目で見る。
「東京に帰っても、もう飲まなくても平気だよ」
舟の視線に入る愛の横顔は、伏し目がちだ。東京に帰るのが怖いみたいな顔をして…
「愛ちゃん、買い物が終わったら、またあの海に行こうか?」
愛は満面の笑みを浮かべて舟の方を見た。
「初日に行ったあの海?」
舟はうんうんと頷く。
「波が高くなかったら泳ぎたいな」
愛もうんうんと嬉しそうに頷いた。
愛はこの数日でハワイの海の虜になっていた。
舟の家のプールで潜ってから、シュノーケルをつけて海の中の様子を見る程までに成長していた。
「行きたいし泳ぎたい。
だって、舟君の一番大好きな海だもんね」