イケメンエリート、愛に跪く
二人はワイキキのショッピングモールで買い物を済ませると、時間を惜しむように慌ててあのビーチへ向かった。
明日の朝の便で日本へ向かうため、ハワイを満喫できる時間は限られている。
舟はその海を前にして、愛に伝えたい事があった。
最初は一週間の予定のはずだったハワイ旅行は、愛との時間が楽し過ぎて三日間延長した。
そのため、舟は、日本に帰ってからの時間が必要以上に少なくなった。
飛行機の時間を合わせると、舟はハワイから日本へ戻った後、実質二日間しか日本に滞在できない。
その余裕のない東京に戻る前に、舟はどうしても愛の答えを導きたかった。
舟にとっては答えは一つしかない。
その答えの意味を、この平和で温和なハワイの土地で愛と確かめ合いたい。
舟はいつものくぼみに車を停め、でも今日は、車の中から様々な荷物を取り出す。
愛が海を好きになってから舟の車にはいつでも泳げるように、二人分の水着やタオル、ビニールシートや日焼け止めクリームなど、全てを揃えて常備していた。
「舟君、この間来た時より、波が静かだよ」
愛はそう言いながら砂浜へ向かって走り出す。
舟は十日前の愛を思い出して、胸が締め付けられた。
必死に元気を装う姿は痛々しく、心の傷が笑顔の回数も減らした。
でも、今の愛は、心の底から笑っている。
怖かった事柄を一つ克服して、今はその海の虜になっている。