イケメンエリート、愛に跪く
そんな日々が一週間ほど過ぎた頃、愛はいつものように一年目の新人アナウンサーのニュースの原稿の読み方のチェックをしていた。
裏方としての仕事にも慣れ、嫌な事はまだ多々あるが自分のペースで動けるようになっていた。
「柏木さん、ちょっといい?」
奥の会議室に来てと、室長に呼ばれた。
「愛さんにとっては不本意な話だと思うんだけど、制作側の方から今度の特番のクイズ番組のMCに君をって話が出てるんだ。
視聴率が低迷しているこの局にとって、愛さんの存在は話題性ではピカ一だと思われている。
人寄せパンダに使われるのはアナウンサー室としても本意じゃない。
でも、もし制作側が決定してしまったら、引き受けるしかない事も頭に入れといてほしい」
愛は胸の奥の方がズンズン鳴り出した。
吸う息吐く息の区別がつかなくなってくる。
室長が会議室から出た途端、愛はポケットに持っていた紙袋を取り出して部屋の隅っこで何度も息を整える。
でも、過呼吸がひどくならないための応急処置も、何だか役には立っていない。
愛は室長の話しの意味をもう一度頭の中で整理した。
実際、まだ公の場に出る勇気はないし、こんな短い期間に復帰だなんて、世間の人達は絶対に許してはくれないはず。
そんな事を考え出すと、息のリズムが今以上におかしくなった。