イケメンエリート、愛に跪く



愛は涙が止まらず、ただただ海を見つめるだけだった。
日本に帰るのが、東京に帰るのが、怖くて怖くてしょうがない。


「愛ちゃんは僕と結婚するんだ…
それは、もう、僕と愛ちゃんがこの世に生を受けた時から決まってる事なんだ。

神様がそう決めた… だから僕達は必ず幸せになれる。

このハワイの日々はこれっきりなんかじゃない…
これから、ずっと続くんだよ…

僕が必ず約束する…」


舟は日本に帰ってからのスケジュールを愛に伝える事を止めた。
それは、今じゃなくてもいい。


「愛ちゃん… 返事は…?」


せっかちな舟は、愛の気持ちが知りたくて仕方ない。
でも、愛は海を見つめたまま黙っている。


「愛ちゃん…?」


今度は舟が泣きそうだった。

何事にも動じない強い精神力が僕の取り柄だったのに、胸が苦しくて息ができない。
愛ちゃん、結婚しないなんて何があっても言わないで…

それでも愛は何も言わない。
舟は水平線に沈んでいく夕日を、絶望に似た思いで眺めていた。



「舟君…」


愛の小さい声は波の音にかき消される。

愛ちゃん、僕は答えを聞くのが怖くなってきたよ…





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