イケメンエリート、愛に跪く


夕食を兼ねたパーティは終わり、愛と舟は二人の部屋へ向かった。
何も変わらず普通に接する舟に、愛は素直に微笑む事ができない。

舟はそんな愛に気付いていた。
部屋に入ると舟はすぐに水着に着替え、テラスへ続く窓を開けた。


「愛ちゃんはシャワーを浴びて来なよ。
僕はひと泳ぎしてくるから」


舟は佇む愛を横目で見ながら、ライトで照らされた生温かいプールに飛び込んだ。

どうしたらいいのか分からない…
自分の損得だけで生きてきた僕にとって、生まれて初めてぶち当たる壁だった。

舟はプールの底をなぞりながら潜る。
何かヒントが落ちてないかと、そんな子供みたいな事を考えながら。

愛ちゃんにとって僕の存在は何?
突然現れた幼なじみは、愛ちゃんにとって本当に王子さまなのか?

深く物事を考えるということは、考えなくてもいいどうでもいい問題を堀り起こすみたいだ。
僕は、愛ちゃんの救世主を気取って日本へ降り立ったけれど、それは僕の自己満足であって愛ちゃんには余計な事だったのかもしれない。

プールの底で舟の心は迷子になっている。
愛を愛し過ぎて、何が正解か分からなくなっていた。
いや、正解なんて、最初からない事くらい分かっている。

舟は頭が破裂しそうだった。
愛を幸せにするための道標を自分が作っていくはずだったのに、今となっては、自分がどこへ向かっているのかさえ分からなかったから。




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