イケメンエリート、愛に跪く



舟と愛は短かったけれど最高に楽しかったバカンスを終え、成田空港へ降り立った。
そんな中、ハワイの暖かい気候に慣れてしまった二人の体は、みぞれ混じりの天気に必要以上の鳥肌を立てる。


「タロウさんが迎えに着てくれてるから、そこまでちょっと歩こう。
寒くない? 大丈夫?」


舟は愛の手から小さめのスーツケースを自分の手に持ちかえ、そして、舟に精一杯の笑みを向けてくれる愛の頬を優しく撫でた。



僕達は、ハワイの最後の夜は、何も考えずに過ごした。
せっかくの二人っきりの夜を無駄にしたくはなかったし、愛ちゃんの困った顔を見るには僕自身が辛すぎた。
今の僕にできる事は、溺れるほどの愛を愛ちゃんに注ぐ事。
僕の存在が愛ちゃんを包み込む空気のように、当たり前の存在になる事。

だから、僕は一切先の話をするのは止めた。
笑っている愛ちゃんにキスをしたかったし、愛ちゃんの方から僕に抱きついてきてほしかったから。
そんなこんなで僕達は、最後の夜は、これ以上ない程に愛し合った。

でも、一つ、想定外な事が発生した。
それは、愛ちゃんに僕の全てを記憶づけて僕がいないと生きていけないってそう思わせる魂胆は、それは全部僕にも降りかかったという事。

最高な甘い夜を過ごした結果、僕こそが愛ちゃんなしでは本当に生きていけなくなった。
愛ちゃんの感触や匂いは、僕の体中の五感や血液に全て記憶づけられ、僕は息をするのも絶え絶えなほど愛ちゃんに魅了され嵌まってしまっている。

先の事は考えないって言ったけれど、もし、愛ちゃんが僕との別れを選んだなら、僕はどうやって生きていけばいいのだろう…








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