イケメンエリート、愛に跪く



タロウの車を見つけると、舟は何も言わずに愛を車へ乗せた。
東京の冬は思っていたより寒い。
特別に今日がそうなのだろうか…?
舟は夕方のどんよりとした東京の空を眺めながら、何となくセンチメンタルな気分に浸っていた。

タロウは愛と舟の荷物をトランクに入れ込んだ後、愛が中のシートに座っている事をを確かめ、舟に頼まれていた物をさりげなく舟に渡した。


「二日後のロンドン行きのチケット、愛さんの分は紙のチケットにしてもらいました」


舟はそのチケットが入っている封筒を見て小さく息を吐く。


「あ、タロウさん、ありがとう。
これで全然OKです」


舟は軽く微笑んでタロウにそう言うと、ちょっとだけ肩をすくめた。


「無駄にならなきゃいいけどね…」


舟はほとほとこんな自分が嫌になる。
というか、こんな弱気な自分に自分自身が一番驚いてるし、吐きそうなほどうんざりしていた。



愛は車の中でもほとんど話さなかった。
愛が何を考え何をしようとしているのか、舟には全く見当がつかない。
でも、だからこそ、舟はそんな愛の手をずっと握りしめている。
そして、一つだけ心が救われているのは、愛の手が舟の手を握り返してくれる事だ。

その愛の手の温かみは、荒れ狂いそうな舟の心をどうにか治めてくれる。



「舟君、私をハワイに連れて行ってくれて、本当にありがとう…
すごく、すごく、楽しかった…」





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