イケメンエリート、愛に跪く
愛の家の近くを車が走り出した時、舟の手をさらに強く握りしめて愛がそう言った。
「何だか見慣れた風景に戻って来たら、舟君とのハワイの日々が夢だったのかななんて思えて悲しくなる…」
愛は真っ直ぐに前を見たままそう言った。
舟はそんな愛の横顔しか見れないけれど、涙を我慢しているのは横顔でもすぐに分かる。
舟は笑みを浮かべ愛を見るのが精一杯だった。
口を開けたら、きっと、愛に伝えたい言葉が山のように出てきてしまう、だから、何も言わずに黙って頷いた。
もう、これ以上伝える言葉はないから…
僕の気持ちをしつこく伝える事は簡単だけれど、それで薄っぺらいものになってほしくない。
ハワイでの日々に、僕は愛ちゃんにちゃんと伝えた。
だから、もう何も言わない…
車が愛の家の前に着いた。
荷物を出すために外へ出ようとするタロウに、舟は優しく首を振る。
タロウは頷いて、車の中に待機した。
舟は愛の荷物をトランクから出し、一度だけ我慢できずに愛を抱きしめた。
誰も居ない事を確かめて、鼻の頭に軽くキスをする。
「愛ちゃん…
前にも言ったように、僕は二日後にロンドンへ発つ」
舟はそう言うと、ポケットから愛のチケットを取り出しそれを愛に渡した。